仙台高等裁判所 昭和38年(ネ)97号 判決 1967年2月20日
控訴人 和田幸吉訴訟承継人 和田徳子 外七名
控訴人 吉川トクこと武石トク
被控訴人 原又三郎
主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用はこれを四二分し、その二一を控訴人武石トク、その七を控訴人和田徳子、その他をその余の控訴人等の負担とする。
事実
控訴人等代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
当事者双方の事実上法律上の主張並に証拠関係は、以下に記載するほか、原判決記載の事実摘示(但し、以下の記載と牴触する部分を除く。)と同一であるからこれを引用する。
但し、この引用中、「被告和田」とある部分はいずれも「表記(一)乃至(八)の控訴人等の先代和田幸吉」と改め、原判決三枚目裏七行目に「俵谷長太郎」とあるのを「俵屋長太郎」と改め、同七枚目裏二行目に「田代ちよ」とあるのを「田代千代」と改める。
第一、被控訴人の主張
一、本件に関係のある土地の所有権並に仮換地指定等の経過は左のとおりである。
(一) 表記(一)乃至(八)の控訴人等の先代和田幸吉(以下単に和田幸吉という。)は従前つぎの土地を所有していた。
<1> 青森市大字寺町四六番一号、同番二号、四七番合併八号 一、宅地四〇坪六合一勺
<2> 同所同番合併九号 一、宅地二〇坪二合五勺
<3> 同所同番合併一〇号 一、宅地二八坪八合五勺
<4> 同所同番合併一一号 一、宅地四九坪三合
<5> 同所三九番三二号 一、宅地二一坪七合五勺
(二) 昭和二三年一二月二五日右<1>乃至<4>の土地に対し一二八坪一合四勺の仮換地指定があつた。同日、右<1>乃至<4>の土地の内一五坪の借地人であつた俵屋長太郎に対し、右一二八坪一合四勺の仮換地の一部である二九坪七合六勺の土地(原判決添付図面イ、ト、チ、ニ、イの各点を順次に結ぶ線によつて囲まれる地域、以下本件宅地という。)の借地仮換地指定があつた。
(三) 昭和二五年六月一四日和田幸吉は控訴人武石トクに対し前記<1>乃至<5>の土地の中左記土地を売渡した。
<イ> 前同所四六番一号、同番二号、四七番合併二三号(前記<4>の合併一一号から分筆) 一、宅地四五坪八合
<ロ> 前同所三九番五二号(前記<5>の三九番三二号から分筆) 一、宅地三坪九合
(四) 昭和二七年七月三〇日前記<1>乃至<4>の土地に対し、さきの仮換地指定より地積を四十坪余増歩してその地積を一六八坪七合八勺とする旨の仮換地変更指定があつた。(本件宅地は依然としてこの変更された一括仮換地の一部である。)それに伴つて俵屋長太郎に対する前記仮換地も三八坪七勺となつた。
(五) 昭和二九年一一月一三日和田幸吉は俵屋長太郎に対し左記土地を売渡した。
前同所四六番一号、同番二号、四七番合併二五号(前記<1>の合併八号から分筆) 一、宅地一五坪
昭和二九年一一月二二日俵屋長太郎は右土地を菅悦夫に売渡し、同人は昭和三三年五月二七日右土地を被控訴人に売渡し、被控訴人はその所有者である。(原審において本件宅地の売買がなされた旨の主張をしたのは以上のように改める。)
なお、右合併二五号の土地は昭和三三年六月一六日(被控訴人の準備書面に同月一七日とあるのは誤記と認める。)その表示を「青森市大字寺町四六番四六号」と変更された。
(六) 昭和三三年七月三〇日右合併の二五号(四六番四六号)の土地について、菅悦夫、被控訴人連署の土地所有権移転届が土地区画整理施行者青森県知事に提出され、次いで同年八月六日被控訴人との合意のもとに和田幸吉から前記一括仮換地中の本件宅地部分を右四六番四六号宅地一五坪(従前の土地)の仮換地とする旨の地形図添付の仮換地分筆異動届が右知事に提出され、受理された。
(七) 昭和三三年八月一二日、前同所四六番一号、同番二号、四七番合併二三号の土地について、和田幸吉、武石トク連署の土地所有権移転届が右知事に提出され、同日右土地について右両名連名で仮換地分筆異動届が右知事に提出されたが、受理されなかつた。
(八) 昭和三三年八月一九日和田幸吉は武石トクに左記土地を売渡した。
前同所四六番一号、同番二号、四七番合併一一号(前記(三)<イ>の合併二三号を分筆した残地)一、宅地三坪五合
(九) 昭和三三年八月三〇日右(八)の土地について右両名連名の所有権移転届が前記青森県知事に提出され、同日右土地について和田幸吉から仮換地分筆異動届が右知事に提出されたが受理されなかつた。
二、ところで、土地区画整理は、健全なる市街地の造成を図ることを目的とするが、これは即ち宅地の利用価値を増進するものである。而して換地計画は右目的達成の制限内において宅地所有者の意思に適合するように定められなければならないが、一方宅地所有者の同意がある場合にはその不利益に定めても差支えない(土地区画整理法第八九条以下)。この意味において仮換地について宅地所有者に一種の処分権があるということが出来る。故に一括仮換地の場合に、従前の土地の一部を売渡した者がその土地に対する仮換地たる土地の図面を添付して異動届を提出し、これが施行者によつて受理された以上、その仮換地についてなされた処分は買主に対してなされたものと見做さるべきである。従つて、前記一の(六)の届出、受理により被控訴人は本件宅地について土地区画整理法の使用収益権を取得するに至つたものである。
三、然らずとしても、本件宅地について借地人としての仮換地指定をうけた俵屋長太郎の地位は、その後和田幸吉承認の下に菅悦夫を経て被控訴人に承継されたのである。而して、その地位は和田幸吉が前記一、の(五)のように従前の土地の一部を俵屋長太郎に売渡し、且つ、その売渡の土地が俵屋長太郎の賃借していた土地と同一の土地であることによつて、内部的に賃借人に対する仮換地の指定から所有者に対する仮換地の指定に変更されたものと解すべきである。そして昭和三三年八月六日和田幸吉から前示青森県知事に対して前記一、の(六)の仮換地分筆異動届が提出され受理されたことによつて、被控訴人は土地区画整理法上においても仮換地の指定をうけた者として本件宅地について使用収益権を有するに至つたものというべきである。
四、然らずとしても、被控訴人は、前記一、の(六)の事実により、和田幸吉から同人が本件宅地について受けた仮換地の使用収益権の譲渡をうけたものである。
以上のとおり、被控訴人は本件宅地について使用収益権を有しているのであるから、仮に控訴人武石トクがその後になつて和田幸吉から本件宅地の一部の使用収益を許されたとしても、土地区画整理法上はもとより、民法その他の法令によつても同控訴人は何等の権利も有しない。
五、仮に以上の理由がないとしても、和田幸吉の相続人である控訴人和田重夫等が本件宅地に対する被控訴人の使用収益権を争うことは、前記一、の(一)乃至(六)に主張の経緯からして、信義則に違背するものというべく、権利の濫用であつて許されない。
六、控訴人等は本件の仮換地指定並に変更処分が無効であると主張するけれども、その主張は次の理由によつて失当である。
(一) 和田幸吉はこれ等の処分が有効であるとの前提の下に本件宅地に対応する従前の土地を俵屋長太郎に売渡しているのである。従つてその相続人である控訴人等が本件においてこれと反対に右各処分が無効であると主張することは信義則に違背するものであつて許されない。
(二) 控訴人等がそのように主張する以上、和田幸吉から控訴人武石トクに対する従前の土地の(売買仮換地使用収益権の譲渡)も無効であるという外はない。そうすれば、控訴人等が本訴請求を抗争する理由は不明であるということになる。
(三) 和田幸吉は控訴人等主張の五筆の土地合計一六〇坪七合六勺を所有していたが、昭和二三年一二月二五日一二八坪一合四勺の換地予定地の指定をうけ、この指定は昭和二七年七月三〇日地積を一六八坪七合八勺と変更されて、右変更指定の土地面積は従前の土地面積よりも八坪余り多いのである。(その後昭和二七年一二月二七日、それまでに武石トクに一部の土地を売渡して従前の土地面積が減少した結果、残りの従前の土地九二坪六合一勺に対し一〇四坪九合八勺の仮換地(本件土地はその一部である。)の変更指定をうけているが、この指定においても従前の土地より一二坪余広い。)
而して、土地区画整理の施行により、換地面積が従前の土地面積より減少することは通常のことであつて、多少の減少があつたとしてもこれを無効ということは出来ないのであるが、和田幸吉は却つて従前の土地面積より広い面積の仮換地の指定をうけているのであり、たとえ主張のような指定洩れがあつたとしても何等の不利益がないのである。従つて、右各処分が無効であるということは出来ない。
(四) また、指定洩れの土地に対しては金銭清算を求める方法があり、不利益を蒙ることは無いのであるから、一筆の土地に対する仮換地の指定洩れを理由にその余の全部の土地に対する仮換地指定(及びその変更指定)の無効を主張することはできない。
七、和田幸吉が控訴人等主張の日に死亡し、同人の権利義務は控訴人等主張のように相続承継されたことはこれを認める。
第二、控訴人等の主張
一、前記第一の一、の主張事実に対する認否
(一) の事実は認める。
(二) の事実は認める。但し、その主張に係る<1>乃至<4>の従前の土地について現地において一括して主張の地積の仮換地指定がなされ、借地人俵屋長太郷に対し<3>の合併一〇号宅地の内一五坪(従前の借地)について現地において主張の地積の仮換地指定があつたものである。なお、右借地仮換地として指定された土地が即ち本件宅地であるとの主張事実は否認する。
(三) の事実は認める。
(四) の事実中、和田幸吉に対しその主張に係る<1>乃至<4>の従前の土地についてその主張の仮換地変更指定のあつたことは認めるが、俵屋七太郎に対しその主張の借地仮換地変更指定がなされたことは否認する。
(五) の事実は認める。
(六) の事実中、菅悦夫と被控訴人がその主張の日に主張のような所有権移転届をしたことは不知、その余の事実は否認する。
(七) の事実は認める。但し、和田幸吉と武石トクは連署してその主張の合併二三号だけではなく三九番五二号宅地三坪九合をも併せて所有権移転届を提出し、受理されたものである。
(八) の事実は認める。
(九) の事実は認める。但し、この届出については、前記(六)の昭和三三年八月六日附土地分筆異動届書添付図面表示と吻合しないとの事由で仮換地指定変更処分が行われず保留されたのであつて、受理されなかつたものではない。
二、前示青森県知事は被控訴人主張の前記昭和二七年七月三〇日の仮換地変更指定(地積一六八坪七合八勺)につき、更に同年一二月二五日、和田幸吉に対し、被控訴人主張の<1><2><3>及び<4>の内合併一一号宅地三坪五合(合併の二三号を分筆した残地)の合計九三坪二合一勺につき仮換地一〇四坪九合八勺(本件宅地はこの仮換地の一部である。)を、控訴人武石トクに対し、右<4>の内合併の二三号四五坪八合及び三九番五二号三坪九合の合計四九坪七合(従前の土地)につき仮換地六六坪六合九勺をそれぞれ変更指定し、その旨通知している。
和田幸吉は、被控訴人主張のように、右<1>の合併八号の内合併二五号の一五坪を俵屋長太郎に売渡し、同人はこれを菅悦夫に売渡し、同人はこれを被控訴人に売渡し、これ等の売買について被控訴人主張(原判決の引用部分)のように所有権移転登記が経由されているけれども、和田幸吉は右俵屋長太郎並にその後の右転買人等に対し前記のとおり一括仮換地の指定があつた一二八坪一合四勺、或いは一六八坪七合八勺、若くは一〇四坪九合八勺の土地(仮換地)について、右のとおり売渡した従前の合併二五号の土地に対応する部分を分割する意思表示をしたこともなければ、それを引渡したこともない。
仮に、和田幸吉が右俵屋長太郎に売渡した土地が右<1>の合併八号の内の一五坪ではなくて<3>の合併一〇号の内の一五坪(俵屋長太郎が和田幸吉から賃借していた土地)とすれば、俵屋長太郎の借地権は混同によつて消滅し、借地仮換地指定の効果も自動的に消滅している。
然しながら、俵屋長太郎が和田幸吉から賃借していた土地は右<3>の合併の一〇号の内一五坪、和田幸吉が俵屋長太郎に売渡した土地は前記<1>の合併の八号の内一五坪であつて、この二つの土地の間には田代清一の賃借地である合併の九、一〇号の内一五坪が介在するのであつて、両者は別個の土地である。
被控訴人が俵屋長太郎の賃借人としての地位を承継したとの事実は否認する。
三、本件宅地が前示のとおり昭和二三年一二月二五日、昭和二七年七月三〇日、同年一二月二五日にそれぞれ指定並に変更指定された一括仮換地の一部であることは認めるけれども、和田幸吉は昭和三三年八月一九日控訴人武石トクに対し前記<4>の内分筆後の合併一一号宅地三坪五合を売渡し、その際右仮換地変更指定のあつた一〇四坪九合八勺の土地からその西側、前記合併の二三号の土地(従前の土地)に隣接の、東西間口三尺、南北奥行六三尺三寸五分(地積四坪三合六勺)の部分を分割し、その使用収益権を譲渡して同人に引渡した。
而して、この分割引渡の部分は、前記二、のように控訴人武石トクに対し合併の二三号、三九番の五二号の土地(従前の土地)に対する仮換地として指定された土地と、合併の一〇号の内一五坪の借地権者たる俵屋長太郎に指定された借地仮換地二九坪七合六勺の土地との間に介在して位置するものである。
四、被控訴人は、菅悦夫から本件従前の土地の一部である合併の二五号一五坪(合併の八号から分筆したもので、その後表示を四六番の四六号と変更)の所有権を取得し、その旨土地区画整理施行者たる青森県知事に届出、受理されたから本件係争の仮換地部分に使用収益権があるというけれども、この場合の受理とは土地区画整理の関係者からの意思表示を受領するという丈のもので、この届出、受理のみによつて仮換地指定の変更処分がなされたものと看做さるべき何等の根拠もなく、本件仮換地の指定は右合併の二五号を含む四筆の土地について一括指定並に一括変更指定)がなされているにすぎないのであり、右従前の土地の一部である合併の二五号の土地に対する独立の仮換地指定乃至変更の処分はなされていないのであるから、被控訴人が右のとおり一括指定された仮換地の特定部分である本件宅地(原判決添付図面イ、ト、チ、ニ、イの各点を結ぶ範囲)部分について当然に使用収益権があるということはできないのである。
仮に何等かの理由によつて被控訴人の右使用収益権が和田幸吉の相続人である表記(一)乃至(八)の控訴人等に主張することが出来るとしても、控訴人武石トクは合併の二五号に関する前記所有権の移転乃至その仮換地についての合意とは何等の関係もない第三者であるから、少くとも同人に対してはその使用収益権を主張することはできない。
五、被控訴人が主張する本件仮換地指定並に変更処分は次の理由によつて無効である。即ち、
和田幸吉は青森市寺町三九番三二号(三三号と準備書面にあるのは従来の主張に照し誤記と認める。)宅地一七坪八合五勺(昭和二五年六月一四日以前は二一坪七合五勺)を所有していたのであるが、この土地は昭和二三年一二月二五日及び昭和二七年七月三〇日の本件仮換地指定並に変更指定に脱落されている。
このように、一筆の土地について然も二一坪七合五勺(又は一七坪八合五勺)という広い地積の土地について換地予定地の指定乃至は変更の処分がないのであるから、当該土地区画整理には重大且つ明白な瑕疵があるものというべく、本件仮換地指定並に変更の各処分はこの瑕疵を承継するもので無効である。
六、和田幸吉は昭和三六年一〇月二六日に死亡して、同人の権利義務は同人と表記の身分関係にある表記(一)乃至(八)の控訴人等がそれぞれ相続によつて承継した。
第三、証拠関係<省略>
理由
一、本判決事実摘示における被控訴人の主張一、の(一)(二)の事実は当事者間に争いがない。なお、控訴人等は借地人俵屋長太郎に対する二九坪七合六勺の借地仮換地の指定が被控訴人主張の<3>の合併一〇号宅地の内一五坪(従前の借地)についてなされたものであるというけれども、証明部分の成立については当事者間に争いがなくその余の部分は原審証人望月倫一の証言によつて成立を認める甲第三号証、成立に争いのない乙第一〇号証の一、二、同乙第一六号証の一、同乙第二一号証の一、原審証人望月倫一、当審証人中村浩の各証言によれば、俵屋長太郎に対する右借地仮換地の指定は被控訴人主張のように<1>乃至<4>の土地の内一五坪の借地についてなされたものであつて、特に<3>の合併一〇号宅地の内の一五坪の借地についてなされたものではないことが認められ、この認定を覆すべき証拠はない。
被控訴人は右借地仮換地として指定された二九坪七合六勺の土地は原判決添付図面イ、ト、チ、ニ、イの各点を結んだ範囲の土地(本件宅地)であると主張し、控訴人等はこれを争うので按ずるに、成立に争いのない甲第二号証の一、二、さきに成立について判断した甲第三号証、同乙第一〇号証の一、二、同乙第一六号証の一、原審証人俵屋長太郎の証言によつて成立を認める甲第五号証、原審証人菅悦夫の証言によつて成立を認める甲第六号証、原審(第一、二回)及び当審証人佐藤真の証言によつて成立を認める甲第八号証の二乃至四、被控訴人主張の如き写真であることについて当事者間に争いのない甲第七号証の一乃至四、成立に争いのない乙第一〇号証の三、成立に争いのない乙第一六号証の二乃至五、原審(第一、二回)及び当審証人佐藤真の証言によつてその作成名義人により真正に作成されたものと認める乙第二三号証の一乃至三、原審証人俵屋長太郎、同望月倫一、原審及び当審証人菅悦夫、同佐藤真(原審は第一、二回)、当審証人中村浩の各証言、原審検証の結果、原審鑑定人柿崎長十郎鑑定の結果を綜合すれば、右借地仮換地として指定された土地は本件宅地であることが認められる。
もつとも、乙第一七号証の三、同第一八号証の三、同第一九号証の二、同第二〇号証の二、には以上の認定と異る記載があるけれども、成立に争いのない乙第一七号証の一、同第一九号証の一、同第二〇号証の一、原審における控訴人武石トクの供述によつて成立を認める乙第一八号証の一、当審証人北沢行雄の証言、原審及び当審における控訴人武石トクの供述によれば、これ等の書面(いずれも図面)は、和田幸吉が控訴人武石トクと共に、前示青森県知事に対し、昭和三三年八月一二日合併の二三号につき、同月三〇日合併の一一号につきそれぞれ所有権移転の届書をなした際、右届書に添付するために右両者で作成して提出した丈のものであることが認められるのであるから、これ等書証中の前示認定に反する部分は前掲諸証拠に照して措信し難く、これ等をもつて前記の認定を左右するものとは認められない。
また、原審証人和田重夫の証言と原審及び当審における控訴人武石トク、当審における控訴人和田徳子の各供述には以上の認定と相反するところがあるけれども、これ等の証言、供述は前掲諸証拠に照して措信し難い。
更に、原審鑑定人柿崎長十郎鑑定の結果によれば、本件宅地の実測面積は三七坪〇五勺九才であつて前示借地仮換地として指定された二九坪七合六勺より七坪二合九勺九才だけ広いことが認められるけれども、前掲諸証拠によれば俵屋長太郎が右二九坪七合六勺の借地仮換地として指定されたのは本件宅地であつて、当時現地においても本件宅地の四隅に木抗を打つてこの土地を特定して指示されていることが認められるから、この点をもつて前示の認定を左右することはできない。他に、以上の認定を覆すべき証拠はない。
本判決事実摘示における被控訴人の主張一、の(三)乃至(五)の事実は、その(四)の事実中俵屋長太郎に対しその主張の仮換地の変更があつたことを除いて、当事者間に争いがない。そして、右争いのある部分の事実についてはこれを認めるに足る証拠がない。尤も、甲第一一号証の二には四六番の四六号宅地一五坪(従前の土地)に対する換地処分後の土地を浦町一丁目二〇番二二号宅地三八坪七勺とする旨の記載があるけれども、これは土地の所有権者に対する清算金明細書であつて借地権者に関するものではないし、当審証人中村浩の証言によれば俵屋長太郎に対する借地仮換地指定についてはその後変更の指定がなされていないことが認められるのであるから、この記載をもつて直ちに被控訴人主張のような借地仮換地の変更があつたとの事実を認めることはできないのである。
成立に争いのない甲第四号証(但し訂正部分を除く)乙第二二号証、さきに成立について判断した甲第八号証の二乃至四、同乙第二三号証の一乃至三、原審証人木戸健太郎、原審(第一、二回)及び当審証人佐藤真の各証言によれば、本判決事実摘示における被控訴人の主張一、の(六)の事実が認められる。この認定に反する原審証人和田重夫(第一、二回)、同藤田茂(第一、二回)、当審証人藤田茂の各証言と当審における控訴人和田徳子の供述は前掲証拠に照して措信し難く、他にこの認定を覆すに足る証拠はない。
本判決事実摘示における被控訴人の主張一、の(七)の事実はその届出が受理されなかつたとの点を除いて当事者間に争いがない。
そして、さきに成立について判断した乙第一九号証の一、同第二〇号証の一、原審及び当審における控訴人武石トクの供述によつて成立を認める乙第一九号証の二、同第二〇号証の二によれば、右昭和三三年八月一二日の所有権移転届は合併の二三号だけでなく、同一書面で三九番の五二号宅地三坪九合についてもなされたもので、その主張の届出は受理された後、「昭和三三年八月六日付で和田幸吉から届出た合併の二五号の分筆届の仮換地指定図上の区画図と符合しない点がある。」との理由でその後調査に付されていることが認められる。
本判決事実摘示における被控訴人の主張(八)の事実は当事者間に争いがなく、同(九)の事実はその届出が受理されなかつたとの点を除いて当事者間に争いがない。そしてさきに成立について判断した乙第一七号証の一、同第一八号証の一、原審及び当審における控訴人武石トクの供述によつて成立を認める乙第一七号証の二、三、同乙第一八号証の二、三によれば、右届出は受理された後「昭和三三年八月六日付で和田幸吉から提出された合併の二五号の分筆届出の青森地方法務局公図写及び仮換地指定による分筆届出図と符合しない点がある。」との理由でその後調査に付されていることが認められる。
前示青森県知事が、前示認定の昭和二七年七月三〇日の仮換地変更指定(変更後の仮換地の地積一六八坪七合八勺)につき、更に同年一二月二五日、その従前の土地の一部が控訴人武石トクに譲渡されたことに伴い和田幸吉に対し、従前の<1><2><3>の土地及び<4>の内合併一一号宅地三坪五合(合併の二三号を分筆した残地)の合計九三坪二合一勺につき一〇四坪九合八勺の仮換地を変更指定したこと(前記控訴人等の主張二、の項)は被控訴人においても明らかに争わないので自白しているものと看做すべきである(被控訴人の主張の中には、右変更指定の日が昭和二七年一二月二七日であり、右合計九三坪二合一勺の面積が九二坪六合一勺であるとの部分があるけれども、成立に争いのない乙第二五号証に照し右日時は昭和二七年一二月二五日の誤記であると認められ、同号証には従前地の地積として九二坪六合一勺の記載があるけれども、これは計算上九三坪二合一勺の誤記と認められるのであつて、この記載に従つて被控訴人も誤記したものと認められる。)。
本件土地が以上のように一括指定並に一括変更指定されてきた一二八坪一合四勺、一六八坪七合八勺及び一〇四坪九合八勺の一括仮換地の一部であることは当事者間に争いのないところである。
二、控訴人等は、合併の八、九、一〇、一一号の土地についてなされた本件仮換地指定並に変更指定の各処分が、三九番三二号の土地について仮換地指定(乃至変更指定)のなされていないことにより無効であると主張するけれども、土地区画整理施行地区内の或る一筆の土地について仮換地の指定が脱落されているとしても、その他の土地についてなされた仮換地の指定処分は別個のもので、そのことによつて直ちに無効とせらるべき理由はないから、その主張は理由がない。
(なお、控訴人等の主張するような事由により、或る土地の所有者がその他の土地に対する仮換地の指定があつたため当該所有地を使用収益することが出来なくなつて損失を蒙つた場合には土地区画整理施行者に対しその損失の補償を求めることが出来るのであつて、本換地処分がなされるまでの段階においては、このような土地所有者は仮換地指定処分の変更を求めるか又はこの補償を求めるかの方法によつて救済の途を得べきものである。(土地区画整理法第一〇一条第二項、第九九条第三項))
三、前記一、に判示の事実関係によれば、本件宅地を含む一〇四坪九合八勺の仮換地は、昭和二三年一二月二五日の仮換地指定処分、昭和二七年七月三〇日の同指定変更指定処分を経て、同年一二月二五日の同指定変更指定処分により、和田幸吉所有の<1>合併の八号宅地四〇坪六合一勺、<2>合併の九号宅地二〇坪二合五勺、<3>合併の一〇号宅地二八坪八合五勺、<4>合併の一一号宅地三坪五合の四筆の土地について一括して指定されたものであるが、その後、右<1>の合併の八号はその中一五坪が合併の二五号(後に表示変更により四六番四六号)として分筆の上、俵屋長太郎、菅悦夫を経て被控訴人に売渡され、右<4>の合併の一一号宅地三坪五合は控訴人武石トクに売渡され、この三名の所有地(従前の土地)についてのこれに対応する個々の仮換地指定乃至は変更指定の処分はなされていないのであるから、土地区画整理法第一二九条により、従前の和田幸吉に対してなされた仮換地指定の処分がこれ等の新たな所有者に対してなされたものと看做されるとしても、その各所有地に対応する仮換地の位置範囲が一括仮換地一〇四坪九合八勺のどの部分に該当するかは仮換地の指定処分上これを特定するに由ないものと言うべく、かかる場合には、右三名の者がそれぞれ従前の土地の一部に対する各所有権取得の段階において、一〇四坪九合八勺の仮換地全部につき、各所有の従前の土地の地積に応じた比率を持分として、共有に準ずる共同の使用収益権を取得し、民法第二四九条の準用により、各人はその持分に応じた使用収益だけをすることが出来るようになるものと解するのが相当である。
被控訴人は、一括仮換地の指定がなされた場合、従前の土地の一部を売渡した者がその土地に対する仮換地たる土地の範囲を特定する図面を添付して土地区画整理施行者に仮換地の分筆異動届を提出し、これが受理されたときには、買主はその特定範囲の仮換地につき土地区画整理法上仮換地の指定がなされたものと看做さるべきであると主張するけれども、土地区画整理法上右のような届出・受理にそのような形成的効果を認める規定はないし、仮換地の指定によつて従前の土地所有者に与えられる仮換地の使用収益権は私法上の原因によつて生ずる法律効果ではなく、施行者の行う仮換地指定処分という公法上の行為に基いて上地区画整理法第九九条第一頂により附与されるものであり、施行者がこの仮換地の指定をする場合には換地計画に定められた事項又は土地区画整理法に定める換地計画の決定の基準を考慮してなすべきもので(同法第九八条第二項)、単に私人の意思乃至私人間の合意のみに従つてなすべきものではないのであるから、以上いずれの点から見ても被控訴人のこの点に関する主張は理由がない。
本件の場合において、前記共同使用収益権者の一人である被控訴人が一括仮換地の一部である本件宅地を特定して、その部分につき仮換地指定をうけた場合と同様の単独専用の使用収益権を主張するためには、土地区画整理法所定の手続を経て、施行者が別に仮換地指定の変更処分をなし、これが従前の土地の各所有者に通知されることを必要とするといわなければならない。
従つて、土地区画整理施行者に土地所有権移転並に仮換地の分筆異動届が提出され、これが受理されたことにより、被控訴人が本件宅地について土地区画整理法上の使用収益権(専用使用収益権)を取得したことを前提とする被控訴人の本訴請求は理由がない。
四、次に、被控訴人は、本件宅地に対する被控訴人の使用収益権は賃借人俵屋長太郎がこの土地について仮換地の指定をうけた地位をその後和田幸吉承諾の下に菅悦夫を経て被控訴人に承継したものであると主張するけれども、そのように被控訴人が賃借権を承継したという事実を証明する証拠はないし、却つて前記一、に判示の事実関係から見ても明らかなように、被控訴人は従前の土地である合併の八号から分筆した合併の二五号(四六番四六号)の土地の所有権を和田幸吉から俵屋長太郎、菅悦夫を経て順次承継取得したものであつて、俵屋長太郎が有していた賃借権を承継取得したものではないのであるから、この点に関する被控訴人の主張は理由がない。
また、被控訴人はこの主張に関連して、俵屋長太郎が本件宅地について借地仮換地の指定をうけていた地位は、和田幸吉が従前の土地の一部を俵屋長太郎に売渡し、且つその売渡の土地が俵屋長太郎の賃借していた土地と同一の土地であることによつて、内部的に賃借人に対する仮換地の指定から所有者に対する仮換地の指定に変更されたものであると主張するけれども、前記一、に判示の事実関係に見られるように、和田幸吉が俵屋長太郎に売渡してそれが菅悦夫を経て被控訴人に順次転売された土地は従前の土地である合併の八号の一部である合併の二五号(四六番の四六号)であるところ、俵屋長太郎が賃借していた土地は合併の八、九、一〇、一一号(この場合の一一号は分筆前の四九坪三合)の内の一五坪という丈でそれが合併の二五号であるという証拠はないし、(若しそれが合併の二五号であるとすれば、その土地の売却によつて俵屋長太郎の賃借権は混同により消滅に帰するものというベく、以後その賃借権を承継するということはあり得ない。)、賃借権と所有権、賃借権に基づく仮換地使用収益権と所有権に基づく仮換地の使用収益権とは法律上その性質、効力を異にするものであるから、この点に関する被控訴人の主張も理由がない。
五、次に、被控訴人は、本件宅地に対する被控訴人の使用収益権は和田幸吉から譲渡を受けたものであると主張する。
よつて按ずるに、一括仮換地の指定がなされてその後に従前の土地の一部が他に分割譲渡された場合には、その譲受人はそれぞれその所有権取得の段階において、一括仮換地の全部につき持分に応じた使用収益をすることが出来る権能を取得するに至るものと解すべきことはさきに判示したとおりである。
ところで、共有地がある場合に、その共有者間において、当該共有地の一部を共有者の一人だけに専用して使用させるか否かということは共有物の管理利用に関する事項としてもとより有効にこれを定め得るところであるから、共有に準ずる本件のような共同使用収益権がある場合においても、共有の場合に準じ、各共同使用収益権者はその間の合意によつて一括仮換地の一部をその中の一人だけに専用して使用収益させることを定めることが出来、この合意は私人間の権利関係の調整配分に関するものとして私法上有効に合意の当事者を拘束するものと解するのが相当である。
そして、前記一、判示の事実及びさきに成立について判断した甲第八号証の二乃至四、乙第二三号証の一乃至三、原審検証の結果、原審(第一、二回)及び当審における証人佐藤真の証言によれば、昭和三三年八月六日、和田幸吉と被控訴人との間で、前記一〇四坪九合八勺の一括仮換地のうち本件宅地部分を被控訴人所有の合併の二五号(四六番の四六号)宅地一五坪に相当するものとして、これを被控訴人一人に専用して使用収益させる旨の合意が成立したものと認められるのである。
而して、この昭和三三年八月六日当時における本件一括仮換地の共同使用収益権者を見ると、前記一、に判示の事実関係に明らかなように、それは和田幸吉(従前の土地の地積は七八坪二合一勺)と被控訴人(従前の土地の地積は一五坪)の二人であるから(控訴人武石トクが和田幸吉から右七八坪二合一勺の従前の土地の一部である合併の一一号宅地三坪五合を買受けたのは同月一九日であること前示認定のとおりであつて、同月六日の右合意当時においては同控訴人は未だ一括仮換地に対する共同使用収益権を取得していない。)、被控訴人はこの合意に基づき、本件宅地を一人で専用して使用収益する権限を取得したものというべきである。
(この合意は、本件宅地部分についてその使用収益権移動の点に着目すれば、和田幸吉が同人の持分に相当する共同使用収益権を他の共同使用収益権者である被控訴人に譲渡したものとも解され得るのであつて、被控訴人が本訴において和田幸吉から本件宅地の使用収益権を譲り受けたと主張しているのは、この意味のことを言つているものと理解される。)
控訴人等は、被控訴人が和田幸吉から本件宅地の使用収益権を譲り受けたとしても、控訴人武石トクはそれに何等の関係もない第三者であるから、右合意の効果を控訴人武石トクに対して主張することは許されないというけれども、前記一、に判示の事実関係によれば、控訴人武石トクは右合意の後である昭和三三年八月一九日になつて従前の土地である合併の一一号宅地三坪五合を和田幸吉から買受けているのであるから、これによつて本件宅地を含む一〇四坪九合八勺の一括仮換地の共同使用収益権についても同人から右買受土地に相当する持分を承継取得したものと認められるところ、民法第二五四条によれば、共有者の一人が共有物につき他の共有者に対して有する債権はその特定承継人に対してもこれを行うことが出来るものとされていて、共有持分の譲受人は共有物の管理使用に関する特約上の権利義務をも当然に承継し、登記その他の公示方法がないからと言つてこれを否認することは出来ないと解されるのであるから、同法条の準用により、被控訴人は和田幸吉から持分の一部を特定承継した控訴人武石トクに対しても右合意の効力を主張して本件宅地の専用使用収益権を行使することが出来ると解するのが相当である。
もつとも、以上のように解するとしても、前記一、に判示の事実及びさきに成立について判断した乙第一七号証の一乃至三、同乙第一八号証の一乃至三、原審検証の結果、原審(第一、二回)証人和田重夫の証言、原審及び当審における控訴人武石トクの供述、当審における控訴人和田徳子の供述によれば、控訴人武石トクは昭和三三年八月一九日和田幸吉から従前の土地の一部である合併の一一号宅地三坪五合を買受けたのであるが、その際右買受土地に対する仮換地として武石トクが専用使用収益することが出来る部分を、一〇四坪九合八勺の一括仮換地のうちでしかも本件宅地の一部に相当する原判決添付図面イ、トの二点を結ぶ線の東側、東西間口三尺、南北奥行約七間(この七間はイ点から北方七間、間口三尺はイ点から東方三尺)の部分とする旨の合意がなされていることが認められるのであり、他方、民法第二五二条は共有物の管理に関する事項は各共有者の持分の価格に従いその過半数をもつてこれを決し得るものと定めているから、同法条の準用により、さきに和田幸吉と被控訴人との間で締結された合意の内容はこの新たな合意の内容と牴触する限度で持分の価格の過半数をもつて変更されたものでないかとの疑いもないではないが、(控訴人等の事実上の主張(原判決六枚目裏(五)項及び本判決控訴人等の主張三、項)にはこのような意味の主張をも包含しているものと理解されないではない。)、共有者間において一旦共有物の管理利用に関する合意が成立し、共有物の一部を共有者の一人だけに専用して使用させることが定められた場合には、以後その合意の内容は合意の当事者を拘束し、(なお、これが共有者の特定承継人に対しても効力を有することはさきに判示のとおりである。)その持分の価格が過半数であるからと言つて一方的にこれを変更したり否認することは出来ないものと解せられるのであるから、このような新たな合意成立の事実をもつて、本件宅地に対する被控訴人の前記専用使用収益権がこの新たな合意によつて変更乃至消滅させられたものと認めることは出来ない。
更に、控訴人等は、控訴人武石トクが和田幸吉と連署して昭和三三年八月一九日和田幸吉から買受けた合併の一一号宅地三坪五合につき前示青森県知事に土地所有権移転届をなし、また換地処分公示の翌日をもつて右宅地(ここに右宅地というのは右宅地に対応するものとして右当事者間で合意特定された一括仮換地のうちのしかも本件宅地の一部に該当する部分を言うもの-前記控訴人等の主張三、項参照-と理解される。)の所有権が控訴人武石トクに移転すべき停止条件付所有権移転を内容とする契約をしたから、控訴人武石トクは右合併の一一号三坪五合の宅地(ここにいう宅地も右と同様に本件一括仮換地のうちでしかも本件宅地の一部である右合意特定の部分を言うものと理解される。)について使用収益権を有すると主張する(原判決六枚目裏(五)項)ので按ずるに、和田幸吉が昭和三三年八月一九日控訴人武石トクに右合併の一一号宅地三坪五合の土地を売渡し、同年同月三〇日この土地について右両名連名の所有権移転届が土地区画整理施行者たる青森県知事に提出され、同日この土地について和田幸吉から仮換地分筆異動届が右知事に提出され、これ等の届出は受理された後調査に付されていること前記一、に判示のとおりであるが、このような届出が提出・受理されたことによつてそれだけで買受人たる控訴人武石トクが一括仮換地中の特定部分である右分筆届出の部分について土地区画整理法上仮換地の指定があつた場合と同様に使用収益権を取得するものとは直ちに認められないこと前記三、の項に判示のとおりであるし、その主張のような条件付所有権移転の契約がなされたからと言つて、土地区画整理法上においても民法その他の法令上においても、そのことによつて直ちに控訴人武石トクがその主張に係る一括仮換地中の一部の土地について被控訴人に主張しうる使用収益権を取得すべきいわれはないのであるから、これ等の主張事実によつて本件宅地に対する被控訴人の前記専用の使用収益権が変更乃至消滅すべき理由はない。
六、和田幸吉が昭和三六年一〇月二六日に死亡して、同人の権利義務は同人と表記の身分関係にある表記(一)乃至(八)の控訴人等がそれぞれ相続によつて承継したことは当事者間に争いがない。
七、以上のとおり、被控訴人は控訴人等に対し本件宅地(原判決添付図面イ、ト、チ、ニ、イの各点を順次連結した直線によつて囲まれる範囲の土地)につき専用の使用収益権を有するのであるから、これを争う控訴人等に対して右使用収益権を有することの確認を求める本訴請求は正当として認容すべきものであり、また控訴人武石トクが本件宅地中の原判決添付図面イ、トの各点を連結した直線の東側約九一糎のところに同直線に沿つて同図面ロ、ハの各点を結ぶ直線上に高さ三米八〇糎、長さ一〇米八〇糎の板塀を設置していることは当事者間に争いがないのであるから、被控訴人に対して本件宅地を専用して使用収益せしめるべき義務を負担する同控訴人が被控訴人に対して右板塀を撤去すべき義務を有することは明白であつて、右板塀の撤去を求める本訴請求は正当として認容さるべきものである。
八、そうすれば、被控訴人の本訴請求はいずれも正当として認容すべきものであるから、これと同旨に出た原判決は結局正当であり、本件控訴はいずれも失当として棄却すべきである。
よつて、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条、第九三条第一項但書に従い主文のとおり判決した。
(裁判官 鳥羽久五郎 松本晃平 藤井俊彦)